PhD Journeys:
Alumni Insights on Doctoral Studies

大学院博士後期課程の魅力

知識と創造力を極める:
大学院博士後期課程の魅力

大学院博士後期課程とは、2年間の前期課程を修了して修士の学位を取得した学生が、さらに博士の学位を取得するために通う3年間の課程のことです。博士後期課程では専門知識はもちろん、高度な問題解決能力や論理的思考力を身につけることができ、それは社会のなかで実践的な課題に立ち向かう際の強力な武器になります。修了者には、研究者はもちろん、国際機関やさまざまな企業で専門家・リーダとして活躍する幅広いキャリアパスが開かれます。このサイトでは、博士後期課程を修了して社会で活躍している先輩たちが、自らの経験を通じて博士後期課程の魅力や重要性を語り、現在のキャリアをどう歩んできたかを紹介しています。先輩たちの体験が博士後期課程への進学を考えるきっかけになることを期待します。

(2018年度以前に博士後期課程へ進学した先輩たちの専攻は、大学院改組以前の専攻名(生物圏資源学専攻、生物機構・機能科学専攻、応用分子生命科学専攻、生命技術科学専攻)です。)

博士後期課程修了生が活躍している業種・職種

をクリックすると、当該の業種・職種へ移動します。修了生の声は をクリックしてご覧ください。

国際機関で活躍している修了生の声

独立行政法人国際協力機構(JICA)
THさん
2020年度 大学院博士後期課程(植物生産科学専攻)修了
2020年度 大学院博士後期課程(植物生産科学専攻)修了

 学部生の頃から、世界の食料不足と貧困に強い関心がありました。多くの途上国では脆弱層・貧困層が環境や資源に制約がある状況下で農業に従事しています。そのような環境下での食料生産性の向上について現場での学びを深めたく、博士後期課程進学を決意しました。
 博士後期課程進学の後押しとなったのは、博士課程教育リーディングプログラムへの参加です。履修した「ウェルビーイングinアジア実現のための女性リーダー育成プログラム」では、生命農学研究科含む5つの研究科から博士課程の学生が集まり、途上国が直面する各分野の課題と解決アプローチとしての研究について専攻や学年を超えて学ぶ機会を得ました。「多様な視点でとらえた物事を具現化するには突出した専門性が重要」という気づきは現職でも日々感じる点であり、博士後期課程で学んだ専門性を現職でも生かしています。
 現職では、地域・国全体から留学生・研修生等の個人まで、様々なスケール感で現地の人たちと共に途上国の課題解決に取り組んでいます。

国際機関World Organisation for Animal Health
NIさん
2015年度 大学院博士後期課程(生命技術科学専攻)修了
2015年度 大学院博士後期課程(生命技術科学専攻)修了

 2015年に博士号を取得してから、国連の専門機関である Food and Agriculture Organization (FAO) を経て、現在は動物衛生と福祉の向上を目的とする国際機関である World Organisation for Animal Health (WOAH)に勤務しています。国際機関に入職してからこれまで、中東やアジア太平洋地域におけるプロジェクト・マネジメントや多国間連携や国際協働を促すコーディネーションに携わってきました。この春からはパリのWOAH本部に新設された「データ統合部」という部署へ異動し、科学的データに基づいて加盟国による国際基準の批准・実施状況をモニターするという仕事に就く予定です。
 学部生のころから将来は国際機関で働きたいと思うと同時に、哺乳類の生殖内分泌学という研究分野に対しても純粋に「面白い、もっと理解したい」という気持ちがあったので、博士課程後期まで進学することに迷いはありませんでした。国際機関に専門職として勤務している今は、研究からは離れてしまいましたが、英語論文の速読・精読やプレゼンテーション、データ解析などの大学院で身につけたスキルは日々の業務に役立っています。これらの実用的なスキルだけでなく、困難な状況でもポジティブに前を向く精神力や、課題を見出し本質を見極める力、足らない知識や経験を他者との協力によって補い目標を達成するコミュニケーション能力など、博士課程でこそ身についたソフトスキルは自分の人生の財産だと思っています。
 博士号取得後の進路として、研究者以外のロールモデルがまだまだ少ない日本ですが、世界に目を向けるとPh.D.の「使い道」は様々です。博士課程への進学を、自分の可能性を広げるための選択肢として、ぜひ考えてみてください。

環境保全に関わる企業で活躍している修了生の声

鹿島建設株式会社
TYさん
2018年度 大学院博士後期課程(森林・環境資源科学専攻)修了
2018年度 大学院博士後期課程(森林・環境資源科学専攻)修了

 私が農学部を選んだのは自然が好きで健全な緑地環境を増やしたいと思ったからです。研究室では森林の土壌や植物中の元素の動態や植物生理に関わる研究をしました。移動できない植物が根や微生物を通して構築する生存戦略の奥深さを研究から学びました。
 現在は、ゼネコンの研究所で造園や森林管理に関する研究開発に取り組んでいます。曖昧な自然環境を評価・管理することは難しいですが、持続可能な自然環境を構築していくことに大きなやりがいを感じて取り組んでいます。業務では、大学の研究に加え、農学部在籍9年間で学んだ横断的な知識が実学として現場へ還元していくことに繋がっています。
 近年、森林の炭素吸収や生物多様性など林学で対象とする領域が国際的に大変注目されています。森林は多面的な機能を持っており、人々の生活を支える重要な資源ですが、多くの課題を抱えています。農学・林学はこれらの社会課題を解決できる力をもっていると思います。皆さんも自然環境をより良くすることに取り組んでみませんか?

株式会社ダイセキ
RBさん
2016年度 大学院博士後期課程(生物機構・機能科学専攻)修了
2016年度 大学院博士後期課程(生物機構・機能科学専攻)修了

【博士後期課程在籍時、どんなことしてた?】土壌生物化学研究室に所属し、水田土壌の水素生成微生物群集を切り口に微生物生態学について研究していました。指導教員の先生方の指導を受けながら、自分で実験系を作ったり実験したりだけでなく、査読付き論文を投稿したり、国際学会で発表をしたり、勉強会を開いたり、いっぱしの研究者として過ごせたと思っています。
【博士後期課程で学んだことや博士号って、いま役に立ってる?】大いに、想像以上に役に立っています。専門知識はもちろんですが、新しいことを学ぶ「学び方」を知っていることや、論理的思考力、プレゼン力、英語力などは同世代の社会人先輩方にも負けていないと思います。あと、博士号取得者が珍しい場所も多いので、印象に残りやすいメリットも。
【後輩のみなさまへ】博士後期課程では、学問の深化はもちろんですが、それ以上に自身の視野を広げ、自信をつけることができました。単純な知識が陳腐化する時代に、好奇心を持って自分の可能性を広げるために博士後期課程進学を検討してはいかがでしょうか。

メーカー・建築関連の企業で活躍している修了生の声

トヨタ紡織(株)
KYさん
2002年度 大学院博士後期課程(生物圏資源学専攻)修了
2002年度 大学院博士後期課程(生物圏資源学専攻)修了

 私は修士課程まで他大学に在籍していましたので、同じ研究室の学生さんしか知りませんでしたが、とても仲良くしていただいて、よく一緒に食事に行った記憶があります。当時は、生活の拠点が研究室でした。トイレ横のシャワー室は大変助かりました。
 学生時代の経験や知識が直接的に関係することは少ないですが、全て、今の仕事に役立っていると思います。特に、指導教官の言葉や考え(研究哲学?)は、自分が悩んだ時によく思い返します。
 今の時代は難しいかも知れませんが、単純な自分の興味を突き詰める事ができるのは、博士課程の魅力だと思います。会社ではイノベーションとか言われてますが、「費用対効果」などを求められ、全く新しい研究・開発は難しいです。今は注目されて無いことでも、後に大きな成果を産み出すことがあります。社会の潮流に左右されず、いろんなことに興味を持って、研究に取り組めるのは博士課程の大きな魅力です。上手くいっても、失敗しても、良い経験になります。博士課程の経験によって、自分だけのユニークな人生を楽しめると思います。がんばってください。

なな喜建築設計
BHさん
2021年度 大学院博士後期課程(生物圏資源学専攻)修了
2021年度 大学院博士後期課程(生物圏資源学専攻)修了

 研究課題は、生物圏資源学専攻木材工学研究室でも研究実績の豊富な木質材料の設計および、木質接合部の力学解析に関するものです。私は韓国の私費留学生として、入寮および奨学金など奨学支援を受け生活しました。博士後期課程での生活の間、当該研究室のみならず近隣の研究室の学生・院生・教員と交流しました。
 博士後期課程では、研究計画の立案、実験の遂行、論文作成能力など、自然科学研究の遂行に必要なあらゆる要素に対して学びました。また、学会大会やセミナーに参加して研究成果の発表だけでなく、様々な業種の人と交流ができました。
 現在の職業は建築設計室のスタッフです。主な業務は木質構造設計、木造耐震診断及び耐震改修設計、木造建築物施工図・部品図の作成です。様々なCADおよび構造ソフト利用し、建築構造設計しています。博士後期課程で学んだ木材構造力学に関する豊富な知見と数理的な解析技術が木質構造設計業務で役立っています。さらに、博士後期課程での様々な交流が現職まで続いています。入社から約3年間の勤務の中で様々な物件の木質構造設計をしました。自分が携わった物件が竣工を迎えた姿を見ると、大きなやりがいを得ることができます。

株式会社デンソー
KWさん
2016年度 大学院博士後期課程(生物機構・機能科学専攻)修了
2017年度 大学院博士後期課程(生物機構・機能科学専攻)修了

 博士後期課程の魅力は、なんといっても、興味のある内容をとことん突き詰められることにあると思います。自身の経験を振り返ってみると、研究を進める度に知的好奇心を搔き立てられ、もっと知りたい、ここはどうなっているのだろう、と没頭していました。また、海外の大学での研究滞在や、論文執筆を経験したことも、前期課程の間ではなかなかできない、後期課程ならではの貴重な体験だったと思います。
 後期課程に進学すると、就活が不利になるのでは…と不安に感じるかもしれませんが、必ずしもそうとは思いません。私は一般企業への就職を選択し、今は大学時代とは全く違う分野で働いています。後期課程では、前期課程よりも研究方針や実験内容を自分で考えて進められる範囲・機会が増えるので、論理的に現状を分析し、課題解決への一手を導出していく能力が培われました。この経験は他者と差別化できて就活での強みになりましたし、異分野の業務で活かすこともできています。
 将来的に一般企業に就職するとしても、研究に魅力を感じているのなら、博士後期課程は非常に刺激的な時間になると思いますので、ぜひ進学して充実した時間を過ごして頂ければと思います。

株式会社島津製作所 基盤技術研究所
KMさん
2018年度 大学院博士後期課程(応用分子生命科学専攻)修了
2018年度 大学院博士後期課程(応用分子生命科学専攻)修了

 私が就活生であった頃は『D進したら就活に不利』とネット等でよく目にしました。少なくとも名古屋大学に在籍する皆さんにとって、これは嘘です。名大では博士人材の就職支援が充実しており、「企業と博士人材の交流会」のような企業人へ自分をアピールするチャンスがたくさんあります。実際、私もこの支援体制を活用したおかげで、現在の勤務先と運命的な出会いを果たせました。
 私は外部の地方公立大学から進学後、博士前期課程と後期課程の計2回の就職活動を経験しました。大したアピールポイントも業績も無い無個性な大学院生として臨んだ1回目と比べ、後期課程で専門性や知識を身に着けて臨んだ2回目の就活の方が、圧倒的に多くの企業からお声をかけて頂いた事をよく覚えています。もしも今の自分が無個性であるという自覚が少しでもあるならば、迷わず後期課程に進むことをお勧めします。当然ながら研究が大好きである事が大前提ですが。
 とは言え、後期課程では、お金の不安、研究の不安、同期が卒業していく不安、等々のたくさんの不安が襲ってきます。そんな時は、研究室の先輩や卒業生を頼ってみて下さい。私が在籍した応用酵素学研究室では定期的にOBOG会が開催されており、こうした場で積極的に様々な世代の方々へ相談できる環境がありました。当時の私が諸先輩方にどれだけ救われたか、、、『研究室のつながり』は偉大です。今では仕事の人脈形成にも大きく役立っています。皆さんも在籍する研究室でこうした場へのお誘いがあれば、是非参加してみて下さい。キャリア形成や人生のヒントを貰えるかもしれません。

東京都内大手電機メーカー 技術開発本部
AYさん
2020年度 大学院博士後期課程(応用生命科学専攻)修了
2020年度 大学院博士後期課程(応用生命科学専攻)修了

 現在私は大手電機メーカーにてバイオテクノロジーの開発者として働いています。2021年博士学位の取得後、社会人3年目を迎えております。
 博士後期課程では、基礎的な生物学の知識の深化だけでなく、研究能力や課題解決能力、コミュニケーションスキルなど、様々な面で成長することができました。自らの興味関心に基づいた研究テーマを選択し、限られた時間の中で研究に取り組みました。この自由度が高い中でも研究を推進し成果を出していく工程は、社会人においても今後の人生においても活きます。博士学位(PhD)の肩書きには、期限内に専門的な世界最先端の成果を上げた実績が含まれます。また、博士後期課程中には国内外の学会やセミナーに参加する機会が多く、交流の中で生まれたアイデアやネットワークは将来のキャリアにおいて大きな強みとなります。さらに業界の最先端を知っているため、就職後でも一目置かれます。現職ではそのような博士卒が集う社内コミュニティがあり、専門×専門によるイノベーション創出の土台となっています。
 私の職業のやりがいは、日本発で世界に誇れるバイオテクノロジーを開発し、人々の生活や健康をより良くすることです。この想いたどり着けたのは、博士後期課程において学問の探究とキャリアの成長を両立させたからです。皆さんもぜひ、自らの興味や目標に向かって進むこの道を歩んでみてください。

化学関連の企業で活躍している修了生の声

PT DUNIA KIMIA JAYA (Specialty Chemical Company)
BMさん
2017年9月 大学院博士後期課程(生物圏資源学専攻)修了
2017年9月 大学院博士後期課程(生物圏資源学専攻)修了

 博士後期課程進学は、学問的にも個人的にも重要な取り組みであり、ユニークで豊かな経験を提供するものです。私が博士号取得を目指した3年間では、非常に深い探求活動に携わることができました。博士後期課程での研究は、その分野における既存の知識体系に大きく貢献し、独創的で出版可能な研究成果を生み出すことが期待できます。
 博士後期課程を修了すると、様々な進路に進むことができます。多くの卒業生が教授や研究者として学界でキャリアを積む一方、産業界、政府機関、非営利団体で研究や指導的役割を担う人もいます。私はリグニンについて多くの知識を得た後、インドネシアに戻り、化学産業で働いています。現在は、リグニン誘導体によるプロジェクトに携わっており、中密度繊維板に塗布するための安定なパラフィンワックスエマルジョンを研究中です。博士号を取得したことで、このような分野で仕事ができることをとても幸運に思っています。
 まとめると、博士後期課程は集中的な研究、知的成長、自己啓発のためのまたとない機会を提供してくれます。それは厳しい旅でもありますが、自分の専門分野に対する深い理解と、その分野に大きく貢献できる可能性につながり、計り知れないほどやりがいのあるものでもあります。

シンクレスト株式会社 品質保証部
MYさん
2022年度 大学院博士後期課程(森林・環境資源科学専攻) 修了
2022年度 大学院博士後期課程(森林・環境資源科学専攻) 修了

 博士後期課程は森林化学研究室に在籍していました。森林化学研究室のもつ分析装置(Cryo-TOF-SIMS/SEM)で植物中における天然化合物の分布可視化に取り組みました。また、私はこの期間で妊娠出産子育てをしていました。最初は家事や子育てと学業を両立できるかということに困ることもありましたが、研究室の先生と大学のサポートで乗り越えることができました。研究室の優しい雰囲気でとても充実した研究生活を過ごすことができました。
 大塚化学への入社時、私は核酸原薬研究開発の経験があるので、研究員として湘南ラボに配属されました。湘南ラボはペプチド、核酸等中分子の研究が主要な業務です。2023年大塚化学と横河電機が両社の強みで中分子薬CRDMO事業に手掛けるために、合弁会社シンクレスト株式会社を設立しました。シンクレストの前身は湘南ラボです。新しい会社の設立後異動になり、出向者として現在品質保証部責任者をしています。ペプチド、核酸等の依頼を受ける時には、目標化合物のプロセス開発から生産、出荷まで自分の博士後期課程で学んだ化学知識と前職経験をもとに一貫した対応ができています。予定通りに高品質な製品を出荷した時の達成感が現職のやりがいです。できたばかりの会社なので、外部との信頼関係を構築するために、製品の品質保証はとても大事なことと思っています。
 博士後期課程では研究の厳しさを深く感じることもありましたが、「巨人の肩の上に立つ」人になる抱負を持って努力しました。博士課程は私の心を磨き、職場でのチャレンジに立ち向かう勇気と自信を与えてくれました。

株式会社カネカ
RAさん
2013年度 大学院博士後期課程(生物機構・機能科学専攻)修了
2013年度 大学院博士後期課程(生物機構・機能科学専攻)修了

 今の時代、スマホひとつあれば、何でも分かってしまいます。そして、この世にはどんなことにも「正解」があるように錯覚してしまいます。しかし、研究の世界ではそんなことはありません。今も分からないことがたくさんあり、多くの研究者がそれを解き明かそうと日々「研究」しています。誰も知らない正解の第一発見者になれること、それが研究の最大の魅力だと私は感じます。
 ですが、正解を見出すことはとんでもなく大変で、試行錯誤の繰り返しです。自分が進んでいる道が正しいのかも分からず、不安になることもあります。そんなときに一番頼りになるものは、自分で積み上げてきた「経験」です。博士号を取得し、企業で研究者となって10年ほどになりますが、今も、学生時代に先生方から学んだこと、研究室で過ごした中で得た経験が私を助けてくれています。
 博士課程に進み、博士号を取得するまでには、時間もお金もかかりますし、すべての人に博士課程進学が向いているというわけではないとも思います。しかし、博士課程に在籍した中で得たものは、いまの私の財産になっていると自信を持って言えます。
 これをお読みいただいた誰かと、いつか研究者としてお会いできることを楽しみにしています。

太平洋マテリアル株式会社
TKさん
2013年度 大学院博士後期課程(生命技術科学専攻)修了
2013年度 大学院博士後期課程(生命技術科学専攻)修了

 博士課程の魅力は、自らの興味や研究テーマに対して主体的に取り組み、自分のアプローチで研究を進める貴重な機会が得られることです。修士課程までは指導教員の指導のもとで研究することが一般的ですが、博士課程では自らの考えに基づき計画し、予算を獲得して研究を進めるという一連の流れを経験できます。
 ただし自分で考えた計画通りに研究が進むことは稀です。私自身結果が出ずに苦しむこともありましたが、指導教員や研究室の仲間と夜な夜な議論して実験を繰り返し、解決の糸口が見えたときの達成感や安堵感は言葉にならないものでした。また、研究室を代表して国内外の学会や勉強会に参加する機会を得ることもでき、様々な分野の専門家と議論したことも得難い経験です。
 そして、博士課程で得られる能力はどのような進路を選択しても活きると確信します。なぜなら、多くの壁に直面した時の原因究明や解決策の模索等の課題解決能力、学会発表や予算獲得のためのプレゼンテーション能力、学生への指導能力等はあらゆる場面で求められるためです。
 最近は支援制度も充実してきたと聞きます。興味があればまずは先輩等にこっそり話を聞いてみることをお勧めします。

製薬関連の企業で活躍している修了生の声

塩野義製薬株式会社 DX推進本部 データサイエンス部
AHさん
2020年度 大学院博士後期課程(名古屋大学・カセサート大学国際連携生命農学専攻)修了
2020年度 大学院博士後期課程(名古屋大学・カセサート大学国際連携生命農学専攻)修了

 私は,生命農学研究科に設置されたタイのカセサート大学とのJDP(ジョイントディグリープログラム)の1期生として博士後期課程に進学をしました.JDPでの留学を経験した中で一番よかったなと思っていることは,自身の専門とは異なる分野の専門家との英語を用いてのコミュニケーションや議論の場が増えたことです.多様なバッググラウンドを持つ方たちと議論する中で自身の研究テーマに如何に興味を持ってもらうか,どのように説明すれば分かってもらえるのかを自分なりに深く考えましたし,他の分野の先生から指摘されることで気付きを得られる部分は多かったと感じています.様々な意見交換や議論をする中で自身のもつ知識を日々アップデートしていく必要があり,サイエンスに対して真摯に取り組むことのできた3年間だと考えています.現在は製薬企業でデータサイエンティストとして従事しており,学生の時に取り組んでいた研究テーマとは直接的には関係がない仕事をしています.一方で,学生の時に培ってきた“サイエンスとは?科学的な妥当性とは?”という視点は,現在の所属部署で担当している薬剤に対するエビデンス構築やデータドリブンな新規事業の立ち上げに大いに役に立っていると日々感じています.

住友ファーマ株式会社
HTさん
2022年度 大学院博士後期課程(動物科学専攻)修了
2022年度 大学院博士後期課程(動物科学専攻)修了

 全ての人が健康で幸せな生活を送ることは、人類にとって最も重要な課題だと考えます。現在、製薬研究はより効果的な薬の開発や致命的な病気の治療に進展していますが、まだまだ人々のニーズに追いつくには至っていません。私はそれを解決し、人の健康に貢献できるという大きな魅力を感じながら研究に取り組んでいます。
 私は高校時代に生物を学んでいなかったものの、動物が好きだという理由で農学部を選び、最終的には博士後期課程まで進学しました。博士後期課程の魅力は、日々研究に没頭し、自分の興味のあるテーマに取り組むことで農学の進歩に貢献できる点です。さらに自分の研究については、私が最も詳しい存在であり、私が世界で初めて発見した事象でもあります。これも博士後期課程まで進学し研究に取り組む魅力だと感じます。さらに博士後期課程ではフェローシップや卓越大学院などの支援により、生活費や研究費の援助を受けることができ、研究に専念できる上に、国際学会での発表の機会も与えていただきました。
 現在の仕事には博士後期課程での研究を生かすことができ、さらに研究者としてのマインドや考え方も大いに役立っています。皆さんもぜひ博士後期課程へ進学し、世界初の発見を成し遂げ、農学の分野から社会に貢献してください。

協和キリン株式会社 生産本部 バイオ生産技術研究所
RYさん
2021年度 大学院博士後期課程(応用生命科学専攻)修了
2021年度 大学院博士後期課程(応用生命科学専攻)修了

 「Ph.Dの称号は足の裏についた米粒のようなもので、取っても食べられないとよく言われてきたが、最近は食べられるものになってきた。むしろ将来は取らないと研究者として食べられなくなるかもしれない。」これは私が博士課程に進学しようか迷っている際に、お世話になった方から言われた言葉で、社会におけるPh.D人財への期待が高まっていることを示すものです。企業研究員としてキャリアを進み始めた今、この言葉の意味を実感します。邊見久先生のもと、古細菌の膜脂質合成酵素についての研究で学位を取得した後、現在は協和キリン株式会社バイオ生産技術研究所にて、バイオ医薬品の生産技術の研究に従事しています。企業では、博士課程で自ら科学の最前線に立ち研究テーマを深く突き詰めた経験が高く評価され、即戦力の人財と期待されます。私自身の場合、入社後一年たった頃には新薬開発における治験薬生産を担うプロジェクトにアサインされ、誰かの命を救うというやりがいを現在の仕事を通じて、早くから感じることができ充実した毎日を過ごすことができています。企業研究員として食べていくためには、博士課程で身につけられる研究テーマの設定力・研究遂行能力が、より活躍できる研究者になるための重要な土台として活かされています。学生時代にこれらを身につけられることが、博士課程に進学する大きなメリットだと思います。

日本たばこ産業株式会社 医薬総合研究所
SUさん
2016年度 大学院博士後期課程(応用分子生命科学専攻)修了
2016年度 大学院博士後期課程(応用分子生命科学専攻)修了

 博士後期課程と聞くと「高い専門性が得られる」というイメージがあるかもしれませんが、その最大の価値は「高度な汎用的能力」の獲得にあると思います。博士後期課程では研究に集中して取り組む中で専門性が得られるだけでなく、①課題を発見・分析、②適切な対処法を立案、③課題を処理・解決、④報告書作成とプレゼン、といったビジネスにおいて極めて重要な能力が身に付きます。また、後輩育成や学会参加を通してチームワーク・コミュニケーションスキルも向上します。このような能力は、就職先が専門分野と関係ない場合でも重宝されます。私は現在、医薬品のプロセス研究に従事しており、学生時代に学んだ有機合成化学の専門性を活かした実験業務だけでなく、他部署との連携を図りながらプロジェクトのスケジュール管理、最新技術の調査・導入に取り組んでいます。博士後期課程での経験が、このような多様な業務を推進することに活かされていると感じます。研究が好きであることは大前提ですが、多様なスキルアップの手段として博士後期課程への進学を考えてみてはいかがでしょうか。

農業・食品関連の企業で活躍している修了生の声

カゴメ株式会社
SIさん
2022年度 大学院博士後期課程(植物生産科学専攻)修了
2022年度 大学院博士後期課程(植物生産科学専攻)修了

 私は病害の知識を得ることで農家である祖父母の助けになりたいと思い、植物病理学を専攻しました。研究室ではナス科植物の病害抵抗性の仕組みを研究しました。感染現場での病原菌と植物の巧妙なせめぎ合いは大変興味深く、研究を続けたい気持ちが強くなり博士後期課程に進学しました。
 進学後は、博士後期課程の学生を支援するプログラムに採用され、学費や語学習得等の支援をいただきました。また、世界の農業を取り巻く課題を知る機会に恵まれました。国籍や分野の異なる学生とチームを組んで東南アジアのスラム街や農村を訪問したことはとても印象に残っています。研究活動においては、国内外の研究会に参加する機会があり、多くの研究者とレベルの高い議論を行うことが出来ました。
 現職では、博士後期課程で鍛えられたあらゆる能力、例えば人脈、論理的な思考力、文章力が生きているなと実感する場面が多くあります。専門知識が求められる場面では、即戦力として貢献することができるのもやりがいに感じています。博士後期課程に進学し、そこでしか得られない多くの経験を積んだことによって、自分の身近な人たちだけでなく世界の食料生産に貢献できる可能性が広がったと感じています。

伊藤忠飼料株式会社
YSさん
2016年度 大学院博士後期課程(生命技術科学専攻)修了
2016年度 大学院博士後期課程(生命技術科学専攻)修了

 博士後期課程時代は、反芻家畜の繁殖制御メカニズムをターゲットに研究活動をしていました。自身の実験だけではなく、他メンバーの実験も手伝いながら、東郷フィールドのウシやシバヤギと戯れながら楽しく過ごしました。また、博士後期課程は、学外で見聞を広げることも大切な学生活動の1つなので、学外実験や学会、海外留学など幅広く連れて行ってもらいました。当時の様々な体験は現職でもかけがえなく、具体的なイメージと実体験をもとに役立つ場面も多々あります。
 博士後期課程進学の最大のメリットは、「俯瞰力や問題解決能力」「グローバル力」を養える点です。博士後期課程は物事を俯瞰して本質を見極め、問題解決能力を培う最高の場です。さらに、国内外の人々とのコミュニケーションを通じて、世界中の情報を広く集めることができるグローバルな人材になれると思います。博士後期課程修了後はこれらのスキルを武器に、民間企業の大きな開発プロジェクトや海外の顧客対応などのハードルの高い業務にあたっても、臆することなく従事することができると思います。

シンクタンクで活躍している修了生の声

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
YWさん
2022年度 大学院博士後期課程(名古屋大学・西オーストラリア大学国際連携生命農学専攻)修了
2022年度 大学院博士後期課程(名古屋大学・西オーストラリア大学国際連携生命農学専攻)修了

 私は在学時に作物の根の水吸収メカニズムの研究をしていました。当時の所属研究室は留学生を広く受け入れていたり、国内外で多くの共同研究を行なっていたりしたので、次第に自分も海外で研究をしてみたいと思うようになりました。そのような折に西オーストラリア大学とのジョイントディグリープログラムが始まり、1期生として参加しました。留学中は国内ではできない実験や現地学生との交流機会を得ることができ、非常に貴重な経験となりました。
 現在は民間のシンクタンクで農業・環境分野の政策研究に関わっておりますが、上記の海外経験に加え、博士時代に鍛えられたロジカルシンキングの力がとても役立っています。研究活動の中でデータを考察しそれを他者にどう説明するか悩んだ時に、日本語や英語で物事を深く考えた経験は、今の自分の思考や自己表現の基礎となっています。
 最近はコスパやタイパといった言葉がよく使われますが、私個人としては、効率の良さだけでない広い視野で学問を楽しむ中でこそ新しい発見やイノベーションが生まれると信じています。そしてそれができることが博士後期課程進学の醍醐味です。皆さんが楽しく充実した研究生活を送られることを願っております。

研究機関・官公庁で活躍している修了生の声

岐阜県森林研究所
NKさん
2015年度 大学院博士後期課程(生物圏資源学専攻)修了
2015年度 大学院博士後期課程(生物圏資源学専攻)修了

 私は博士後期課程を終えてから県職員となり、県の林業試験場に配属されました。現職では、学生時代に行っていた研究に近い研究分野を仕事で行っています。この環境は非常に恵まれたもので、楽しいことも困難なことも様々ありますが、大変やりがいをもって業務を行っています。
 このような状況で、博士後期課程への進学はいくつか大きなメリットがあったと考えています。まず、県所属の研究機関には学位取得者が少なく、博士後期課程に進学して学位取得したことは、現職を続けるうえで大きな強みになっていると考えています。また、大学院時代の先輩や後輩、知り合った研究者の方々には、業務を行う上で大きな力添えをいただいており、当時築いた人脈は現在、大変貴重な財産となっています。博士後期課程の間に得たものが、自分の研究職におけるキャリアの幅を広げたと確信しています。

石川県白山自然保護センター
TKさん
2016年度 大学院博士後期課程(生物圏資源学専攻)修了
2016年度 大学院博士後期課程(生物圏資源学専攻)修了

 学生時代は,針葉樹人工林におけるシジュウカラ科鳥類の繁殖生態について,生態学や人工林の多様性保全という観点から研究を行っていました。毎年,繁殖期の3月から7月ごろまでは稲武フィールドに住みながら山での調査を行い,その後は研究室でパソコンに向かうことが中心でした。今の仕事のひとつには,ニホンジカやツキノワグマ,高山植物などの動植物の野外調査があり,調査対象が鳥類から変わっても,フィールドでの調査経験はもとより,調査計画,結果のとりまとめなどあらゆる段階で研究室生活の中で培われた考える力が役立っていると感じます。
 博士後期課程への進学は,時間とお金の大きなコストがかかります。私の場合は,博士後期課程に進学を決める時は,当時の研究のデータが集まり始めて面白くなってきたところだったので,あまり深く考えずに好奇心だけで決めてしまいました。しかし,7年経ち思い返しても後悔はなく,あの研究室生活があったから今の自分があるのだと思えます。研究にワクワクする人はぜひ博士後期課程にチャレンジしてみてください。

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
九州沖縄農業研究センター 暖地畜産研究領域
YMさん
2019年度 大学院博士後期課程(生命技術科学専攻)修了
2019年度 大学院博士後期課程(生命技術科学専攻)修了

 私は在学時、浮イネの洪水応答に関する生理学的な研究や、茎の発達に関わる分子生物学的な解析を行いました。幼いころから、生物はなぜ、どのように生きているのかということに興味があったので、博士後期課程の3年間、邪念無く集中して生命現象の解明を目的とした基礎研究に従事できたことは、私の人生の中でかけがえのないものとなりました。
 現在は、和牛の飼養管理技術に関する研究開発に従事しています。人手不足や飼料価格の高騰など、畜産業界が抱える問題は多いため、研究開発の立場から課題解決に貢献できるよう日々取り組んでいます。社会に直接貢献できるような、実用化に近い研究を行える点に、現職のやりがいを感じています。
 博士後期課程では、前期課程までと比べて、研究交流会など自身の研究内容を発表し、交流する機会がより多くありました。また他研究機関の方々と共同研究を行う機会にも恵まれました。他分野の方と積極的に交流し、広い視点で自身の研究を見つめることができた経験は、現職の研究業務にも活かされていると感じています。
 ご自身の探求心を糧に、知的欲求を存分に満たして成長したい方は、博士後期課程へ進学しませんか?

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
作物研究部門 作物デザイン研究領域
TKさん
2021年度 大学院博士後期課程(名古屋大学・西オーストラリア大学国際連携生命農学専攻)修了
2021年度 大学院博士後期課程(名古屋大学・西オーストラリア大学国際連携生命農学専攻)修了

 私は名古屋大学・西オーストラリア大学のジョイント・ディグリープログラム (JDP) に所属し、イネ根系形態の遺伝的制御に関する博士学位研究を行いました。JDPは2大学から共同で単一の学位を授与するというユニークなプログラムで、国内での研究活動に加えて、私は博士後期課程2年次に西オーストラリア大学に1年間滞在して研究を行いました。通常の海外留学とは異なり、名古屋大学に加えて、現地大学の研究者にも指導教員としての役割を引き受けていただき、日々の実験のサポートから、英語での学位論文執筆まで厚くご指導いただき、両大学名の入った博士号を取得することができました。そのプロセスで獲得した英語コミュニケーション能力や国際的な人的ネットワークは研究者人生での大きな財産になると思います。修了後、私は国立研究開発法人・農研機構に所属し、イネの根系改良による水田からの地球温暖化ガス排出削減に関わるプロジェクトに従事しています。博士後期課程に進学する魅力の一つは、就職後も自ら主体となって学生時代からの研究を発展させられることであり、私は研究活動を通じて国際規模の問題解決に貢献できる研究者を目指しています。

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
九州沖縄農業研究センター 暖地畜産研究領域
KHさん
2019年度 大学院博士後期課程(動物科学専攻)修了
2019年度 大学院博士後期課程(動物科学専攻)修了

 生物が好きな私は、他大学でウシの生殖内分泌について学んだ後、名古屋大学大学院生命農学研究科の博士前期課程に入学し、後期課程へ進学しました。在籍時は、哺乳類の生殖制御メカニズム解明のための研究に取り組み、卒業後は、農業に関する研究を続けたくて農研機構に就職しました。現在は、黒毛和種の繁殖に関する研究を行っており、研究を通じて世界の食料生産に貢献できることにやりがいを感じています。
 博士後期課程では、日本学術振興会の特別研究員に採用していただけたおかげで、経済的不安から離れて研究に専念できました。給与を学費や生活費に充てることができ、研究費も交付されるため、出張や高価な実験も行いやすくなるからです。博士後期課程進学の魅力は、頻繁に専門の先生方と議論する機会があること、専門性の高い最先端の研究を行える環境に身を置けることだと思います。申請書や論文の書き方、論理的思考、実験系の組み方、英語での議論、学会発表の仕方等を学ぶことができ、これらの経験は現職でも大いに役立っています。研究者としての専門性を高めることができた博士後期課程の3年間は、私にとって必要な時間だったと思います。

一般社団法人 家畜改良事業団
家畜改良技術研究所
TSさん
2018年度 大学院博士後期課程(生命技術科学専攻)修了
2018年度 大学院博士後期課程(生命技術科学専攻)修了

 私は博士課程において家畜の繁殖機能を制御する神経内分泌メカニズムに着目して研究を行ってきました。 家畜を対象とした研究はまとまったデータを得られるまで時間と労力を必要としますが、研究室のメンバーと協力することで一定の成果を得ることが出来ました。幸運にも前期課程ではリーディング大学院から、後期課程からは日本学術振興会から支援をいただいたおかげで経済的不安なく研究に打ち込むことができました。
 「博士」と聞くと高い専門性や技術力に目が行きがちですが、一番の武器は博士課程で培われた論理的思考力だと感じます。私は、入社当初は凍結精液などを農家へ販売する営業職に従事しました。家畜市場などの情報を分析して資料を作成することで、顧客にデータに基づいた説得力のある説明ができ、目標以上の販売成績を収めることが出来ました。博士課程で養われる能力は、研究だけでなく様々な業務で役に立つと感じています。
 現在は研究所に配属となり、ウシの受胎率向上のための研究に従事しています。研究は一朝一夕で成果が出るものではなくプレッシャーもありますが、自身が携わっている研究が5年後、10年後に畜産現場を支える技術になるという自負をもって研究開発に取り組んでいます。

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
畜産研究部門 乳牛精密管理研究領域
RTさん
2020年度 大学院博士後期課程(生命技術科学専攻)修了
2020年度 大学院博士後期課程(生命技術科学専攻)修了

 学部4年生次に初めて研究に触れる中で畜産に関する研究をすることに魅力を感じ、博士後期課程に進むことを決めました。在籍時は、反芻家畜(ウシ・ヤギ等)の繁殖機能の研究を行いました。先生方や先輩・後輩と協力しながら、ときにはわいわい騒ぎながら、家畜の生理機能について理解を深めました。また学問以外でも、文章作成、マネジメント、コミュニケーションなどの能力面の成長はもちろん、様々な経験を通して人間的にも成長できた博士後期課程であったと思います。博士後期課程修了後もウシに関わる研究がしたいと思い、現在は農研機構にて研究員として働いています。乳牛を対象とした研究を行っていますが、今は大学院での専門とは異なる分野を勉強中です。大学院で学んだ専門性を直接的に生かすのは難しい状況ですが、フィールドに出ながら研究をした経験は周りの人とは異なる自分の強みとなっており、いつも私を助けてくれています。博士の学位を取ることはあまり一般的な道ではないかもしれません。けれど、その過程を経ることでしか得られないものも多くあり、私にとってはかけがえのない時間になりました。もし興味があれば、ぜひ飛び込んでみてください!

大学で活躍している修了生の声

静岡大学学術院農学領域
KOさん
2016年度 大学院博士後期課程(生物圏資源学専攻)修了
2016年度 大学院博士後期課程(生物圏資源学専攻)修了

 研究職を目指していた私にとって、博士後期課程への進学は、研究の計画立案・実験実施・データ解析・研究発表等の技術を習得するために必須でした。いざ進学してみると、これらの技術の習得だけでなく、もっと重要なことを身に着けることができました。学部や博士前期課程では専門教育を受けながらも、やはり経験で終わることがあるかと思います。例えば「研究の一連の過程を経験した」「学会発表を経験した」等です。博士後期課程ではワンランク上の活動ができました。「自分はこんな研究がしてみたい」「こんな解析方法を想いついた」「自分は現代の定説に対してこう考えている」等を繰り広げ、指導教員や関連研究者・技術者らと議論することができました。これらを通して人として成長することができ、進学前と比べて自身の考えを主張する能力の向上を実感しました。社会人となった今でも「自分は何に興味があって、どのような能力を武器にして、どうやって社会に貢献するのか」を主張することが求められます。また、これを高いレベルで展開できることは人生の充実につながると信じています。自分らしく生きるための礎を、博士後期課程では築くことができました。

中国 山東大学 生命科学科
PZさん
2014年度 大学院博士後期課程(生物圏資源学専攻)修了
2014年度 大学院博士後期課程(生物圏資源学専攻)修了

 森林化学研究室の博士後期課程留学生として、私は学生生活のすべてを楽しく過ごすことができました。先生方はとても勉強熱心で、すべての学生にとても親切です。きめ細かな研究指導をしてくださり、博士号取得に向けて前向きに取り組むことができました。また、科学の神秘を議論するだけでなく、人生の困難に対処する方法もいろいろと教えて頂きました。この経験が、その後の人生でも大きな糧となっています。
 博士課程では、研究課題について深く学ぶことができます。科学的な視点から世界を体験することは、時に興味深いものです。博士号を取得することによって、将来の人生において、より多くの雇用の選択肢と、より高いリターンが得られると私は考えます。キャリアや人生において、より広いステージを見通すことができるのです。

岡山大学 大学院環境生命自然科学研究科 動物遺伝学分野
MNさん
2022年度 大学院博士後期課程(動物科学専攻)修了
2022年度 大学院博士後期課程(動物科学専攻)修了

 博士後期課程への進学は将来のキャリアにおいて大きな飛躍をもたらす貴重な機会です。私が現在、岡山大学農学部で教員として働くことができているのも博士後期課程で成長できたからです。博士後期課程では哺乳類の繁殖を制御するメカニズムについて研究を行いました。この過程で他研究機関でも研究に携わり、共同研究を通じて、自身の研究を深めるだけでなく異なる視点やアプローチを学ぶことができました。また、研究に取り組む中で忍耐強さや諦めずに挑戦する精神を養うことができました。これらの経験は現在取り組んでいる家畜における遺伝性疾患に関する研究や学生の指導において大きな助けとなっています。博士後期課程中は卓越大学院プログラムGTRや日本学術振興会特別研究員により経済的な不安を持たずに研究に専念することができ、これらの活動を通じて自身の研究を他の研究者に伝える経験や審査を受ける経験を積むことができました。博士後期課程では自身の専門性を深化させ研究者としてのスキルや能力を磨くことができます。ぜひ博士後期課程に進学し自身の可能性を広げてみてください。

東京大学 大学院新領域創成科学研究科
MFさん
2018年度 大学院博士後期課程(生物機構・機能科学専攻)修了
2018年度 大学院博士後期課程(生物機構・機能科学専攻)修了

 私は博士後期課程修了後、約2年半一般企業で勤務した後、アカデミア研究の世界に戻ってきました。企業でも多くの働きがいや魅力はありましたが、単純に「基礎研究が好き」という思いから、現在もアカデミアの世界に身を置いています。
 Ph.D.を取得する最大のメリットは、人生の選択肢が増えることだと考えます。アカデミアから企業へ、企業からアカデミアへ、日本から海外へ‥。Ph.D.は国際的な資格のため、ビザの取得も比較的容易で、海外でポスドクを経てP Iを目指すことも可能です。国内外の研究者とバックグラウンドに関係なくお互いの研究について意見交換をすることはとても楽しく、研究の原動力となります。また、同世代の研究者が海外でP Iを目指す姿は良い刺激になります。
 20代の貴重な数年間を学生として費やすことに不安はあると思います。しかし、近年ではPh.D.取得者を歓迎する企業も増えており、また、博士後期課程を通して学んだ物事を論理的に考える力、プレゼン力、文章力などは企業でも高く評価されるため、その後どの道に進もうとも決して無駄にならないと思います。博士後期課程は大変なことも多いですが、そこで身に付けた力や経験は、人生の選択肢や視野を広げてくれるはずです。自分の関心・興味を追究できる貴重な数年間、ぜひ挑戦してみてください!